香席では、複数の香木の香りを次々に聞くということがよく行われます。参加者は香木の香りを嗅いだ順番を聞き分けることに努めるのです。この種の香 席の様式 を組香といいます。この際に、香木の香りは、古典文学や四季の風情などのテーマに合わせて組み合わされ、香りはそれを描く詩と共に鑑賞されることが多いよ うです。
1) 月見香[1]
この組香は、秋の月の風情を香りで表現し、それを鑑賞するものです。
2種類の香木を準備し、一つを「月」、もう一つを例えば、「客」というように名づけます。
まず、「月」の香りを試し聞きをして、参加者はその香りを記憶します。次に、月三包、客三包の合計六包を打ち交ぜ、その中から三包を取り出し、上から順に炷きます。
参加者は、各自「記紙」に答えを記入します。「月」の香りと同じなら「月」、そうではない場合は「客」と記入します。志野流では返答をその香の組み合わせによって名づけられた名目によって返答します。
<鑑賞>
「客」が闇夜をあらわすと考えて、それぞれの組み合わせにふさわしい月の出方や見え方の名目を当てはめます。
月月月と聞けば、「十五夜」: 満月をさす。
客客客と聞けば、「雨夜」: 月はまったく姿を見せず今日は雨空。
月客客と聞けば、「夕月夜」: 月が満ちてゆく間は、月は早く上がってすぐに消えます。
月月客と聞けば、「待宵」: 満月の前日。十五夜まではあと少し。
客月月と聞けば、「十六夜」: 満月の翌日は少し遅めに「いざよう」ように月がでます。
客客月と聞けば、「残月」: 遅く出て明け方も空に残る新月間近の月。
月客月と聞けば、「水上月」: 闇夜を中間に天上と水面に二つの月。
客月客と聞けば、「木間月」: 木と木の間から望まれる月。
2) メイフラワー香 [1,2]
この組香は、1992年にボストンでジャパン・フェスティバルが催された際に、「ボストンのお香の会」のメンバーが、志野流の師範への日頃の指導への感謝の気持ちを込めて創り、贈ったものだそうです。
早春の森の雰囲気を愉しむのにぴったりの組香です。
香木を3種用意し、それぞれ「雪溶け」、「春の陽にうたた寝する蛇」(この二つは、あらかじめ試し聞きします)、「メイフラワー」と名付けます。このうち、「雪溶け」、「春の陽にうたた寝する蛇」をそれぞれ2包、「メイフラワー」を1包用意し、包みを打ち交ぜ、そこから3包取り出し、順に炷き出します。
この組香は、アメリカの・ニューイングランド出身の女性詩人、エミリー・ディッケンソンの詩を基に創られました。
「No.1332」
ピンク色でー小さくー時間にたがわず
香高くー背は低く
四月はー控えめに
五月はー恥らわず
苔には懐かしく
小さい丘には馴染み深く
駒鳥には親しく
人の心を皆
力強い可憐な美しさで飾り
自然は太古の形見になることを誓って許さない
(訳 森田喜代子)
<鑑賞>
ニューイングランドの森に足を踏み入れた状況を想像してみましょう。
「雪溶け」、「春の陽にうたた寝する蛇」、「メイフラワー」の全てを聞いたら、いろいろなものをみつけ早春の森の雰囲気を満喫した。
「雪解け」だけを聞いたら、まだ時期が早すぎて散策には寒すぎて、花を見つける間もなく森を出てしまった。
「春の陽にうたた寝する蛇」だけを聞いたら、蛇が怖くて外に何も見つけることができなかった。
「メイフラワー」だけ聞いたら、花を見たけれどそのときはメイフラワーだとは知らなかった。
「メイフラワー」だけ聞いたら、花を見たけれどそのときはメイフラワーだとは知らなかった。
参照:
[1] 太田清史、香と茶の湯、淡交社、京都、2001.
[2] Kiyoko Morita, Book of incense -enjoying the traditional art of Japanese scents-, Kodansya International Ltd., Tokyo, 2006.